後遺障害による逸失利益については、実務においては、現実損害積(差額説)
と労働能力喪失説の二つの考え方が有力でした。後遺障害が生じれば、それに
よる労働能力の低下は一般的に明らかですが、差額説は、その場合でも事故前
より収入が減少しない限り逸失利益はないとします(最判昭42.11.10
民集21巻9号2352頁)。これに対し、労働能力喪失説は労働能力の喪失
自体を財産的損害と捉え、減収の有無・程度や事故後の稼働状況などは損害額
評価の資料にすぎないとしています(東京高判昭50.3.31 判時781号
76頁)ので、損害の発生を肯定する可能性が高いといえます。
最近の民事交通事故訴訟の実務では、労働能力喪失説的な損害額算定方法
(基礎収入額×労働能力喪失率という計算を行う)を採用するのが一般です。
しかしながら、これは裁判例が労働能力喪失説を採用しているためではなく、
収入の減少額を直接的に算定する方法がないので、便宜的に、労働能力喪失
率に応じた減収が発生するはずと推定して差額を算出しているともいえます。
それゆえ、事故後被害者に減収が発生していない場合には、損害の発生を肯
定すべきか否かが論点となることが多いです。この点、最高裁は、労働能力
の喪失自体を損害と考えることができるとしても、
① その後遺症の程度が比較的軽微で、かつ
② 被害者が従事する職業の性質からみて現在、又は将来における収入の減
少も認められない場合
特段の事情がない限り、労働能力の喪失を理由とする財産上の損害を認める
余地はないとしています(最判昭56.12.22 民集35巻9号
1350頁、判時1031号123頁)。
この最高裁判例の判示は労働能力喪失説においてもほぼ異論のないところ
と思われ、形式的に後遺障害等級表に該当する障害があるから財産的損害の
発生を認めているという論理を採用する裁判例は稀有に近いといえます。し
かし、上記①②に該当する場合でも、減収が生じていない理由が被害者の人
一倍の努力や勤務先の特別の配慮などにある場合、後遺障害の継続期間が現
勤務先の定年後に及び、定年後の再就職困難その他不利益が予測される場合
などは、特段の事情がある場合に当たることに留意する必要があります。こ
のような観点から検討して、事故後減収が生じているとは確認できない場合
であっても損害の発生を認める裁判例は多いです。
以上
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