本来、人の命を金銭的に評価することはできませんが、法律上、損害賠償という金銭の評価をするほかありません。
この場合、直接の被害者の方は損害賠償請求をすることはできないので、被害者の相続人が、被害者に代わって損害賠償を請求することになります。
死亡事故により加害者(又は、加害者の保険会社など)に請求することが可能な賠償金として、主に以下の3つが挙げられます。
① 死亡逸失利益
② 死亡慰謝料
③ 葬儀関係費
それぞれに支払いの基準(自賠責基準・任意保険基準・裁判所の基準)があり、算定方法や限度額なども異なります。
死亡による逸失利益の中心部分は稼働利益の喪失による損害です。
死亡した被害者が存在していれば得られた収入(又は経済的利益)を喪失分として、損害賠償することを、死亡逸失利益の損害賠償といいます。
なお、死亡逸失利益の算定方法は、主に以下のようになります。
基礎収入※1✖(1-生活費控除率※2)✖就労可能年数に対応するライプニッツ係数
(※1)基礎収入額は原則として、事故前の現実収入額です。
被害者が主婦や、求職中の場合など、収入を証明できない場合、賃金センサスに基づいて、基礎収入の額を算出します。
(※2)生活費控除率は、被害者の家庭内の地位に応じて、原則、30%~50%の範囲内の数値を認定しています。
・就労可能年数は基本、死亡時から67歳までとされています。
なお、高齢者の就労可能年数は
① 死亡時から67歳までの年数
② 死亡時から平均余命年数の2分の1
いずれか期間の長い方を使用します。
亡くなった被害者固有の慰謝料というのは、本来亡くなった被害者本人に発生する請求権です。しかし、被害者本人は亡くなっているので、この請求権は相続人が相続することになります。
死亡事故により、支払われる慰謝料の目安は次のとおりです。
① 自賠責保険の基準 350万円
② 任意保険の基準 各保険会社により異なります(裁判所の基準より低額です)
③ 裁判所の基準(弁護士基準) なお、以下の額は死亡慰謝料の総額であり、これには、近親者に支払われる固有慰謝料(詳しくは民法711条)も含まれています。
赤い本「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」に掲載されている死亡事故の慰謝料基準
一家の支柱 2800万円
母親、配偶者 2400万円
独身の男女、子供、幼児など 2000万円~2200万円
上記の額は一応の目安であり、個別の事情等により(事故態様・事故後の行動が悪質な場合など)増減されます。
葬儀費として請求することが認められるものと、認められないものは以下のとおりです。
・法要→〇
・墓碑建設→〇
・仏壇購入費用・仏具購入費→〇
・墓地購入・墓石購入費→〇
・遺体処置費等→〇
・香典返し →✖
・弔問客接待費→✖
・遺体運搬費→〇(使用した場合は、相当額が加算されます)
被害者(相続人)から加害者に対する請求期間は、原則、交通事故により被害者が死亡した日の翌日から3年間です(加害者の任意保険会社への請求も含みます)。
例外として加害者が不明な場合、交通事故の発生日の翌日から20年間(又は、加害者を知った日から3年間)となります。
(時効は中断することが可能です。焦って示談に応じずに、専門家である弁護士に問い合わせて下さい。)
死亡事故の場合でも、被害者の死亡まで一定期間が経過した場合、その期間を休業損害として請求することが可能です(即死の場合、休業損害は認められません)。
妊娠中の女性が、交通事故による怪我が原因で死産(流産)した場合、胎児自身の慰謝料の請求は認められません(人が権利能力を取得するのは、出生の時からです。)。
ただし、「被害者の精神的な苦痛」として、怪我をした女性の慰謝料を増額することが可能です。
様々な事情により慰謝料の金額は異なりますが、一つの目安として妊娠期間があげられます(判例によると、妊娠初期に比べ出産直前の方が高い慰謝料を認めています)。
なお、父親への個別の慰謝料については裁判例も分かれているため、取り扱いの難しい問題となっています。
幼児の死亡事故による逸失利益を算定する際に、将来の養育費について控除を行うかが問題となります。
幼児が死亡した場合、その親は幼児の逸失利益を相続すると同時に、将来の養育費の支出を免れることになるためです。
これについて最高裁判所は、支出を免れた養育費ついて、損益相殺として控除すべきではないと判断しています。
死亡事故により被害者の遺族が、損害賠償請求権を相続し死亡慰謝料等を受け取る場合、これらが相続税や所得税等の対象となるかは大きな問題と思われます。
このような時、遺族が相続によって取得する損害賠償請求権には、原則として相続税はかからないとされています(例外有り)。
また、遺族が受け取った賠償金に所得税が発生することもありません。
(相続税の例外)
交通事故で被害者が重傷となり、被害者本人が慰謝料などの示談金を加害者から受け取った直後に死亡し、遺族がその示談金を相続した場合は相続税の対象となります。